「デュアルシステムは本当に効果があるのか?」「どんな学校がどのように実施して成功しているのか?」そんな疑問をお持ちではありませんか?
実際に、デュアルシステムは2004年から文部科学省の推進事業として始まり、全国の専門高校で着実に成果を上げています。
しかし、具体的な実施方法や成果を知らなければ、自社での導入イメージが湧きにくいのも事実です。
この記事では、デュアルシステムで実績を上げている代表的な実施校の事例を紹介し、成功のポイントを詳しく解説します。
この記事で分かること
- 桑名工業高校の130社連携の実態
- 東京都のデュアルシステム専門科設置の成果
- 長野県須坂創成高校の地域連携モデル
- 各実施校の共通する成功要因
- 企業が学ぶべきポイント
読了時間: 約8分
目次
- デュアルシステム実施校の全国展開
- 事例1: 三重県立桑名工業高等学校
- 事例2: 東京都立葛西工科高等学校・多摩工科高等学校
- 事例3: 長野県須坂創成高等学校
- 成功事例から見える共通ポイント
- 企業が学ぶべき5つの教訓
- まとめ
デュアルシステム実施校の全国展開
まず、デュアルシステムの全国的な展開状況を確認しましょう。
文部科学省の推進事業
デュアルシステムは、2004年(平成16年)に文部科学省の「専門高校等における『日本版デュアルシステム』推進事業」として始まりました。
推進の背景:
- 若年者の就業意識の希薄化
- フリーター・ニートの増加
- 産業界の即戦力人材ニーズ
- 技術継承の課題
実施校の拡大
参加状況(過去のデータ):
- 2017年度:約900名の生徒が企業実習に参加
- 2018年度:約1,000名が参加
- 協力企業数:700〜800社規模
2025年現在も、全国の工業高校・商業高校を中心に継続実施されています。
主な実施地域
東日本:
- 東京都:葛西工科高校、多摩工科高校など
- 茨城県:日立工業高校
- 長野県:須坂創成高校
中部:
- 三重県:桑名工業高校(2004年開始、最古参校の一つ)
西日本:
- 複数の専門高校で実施
それでは、代表的な実施校の具体例を見ていきましょう。
事例1: 三重県立桑名工業高等学校
三重県で最も早くデュアルシステムを導入し、20年以上の実績を持つ桑名工業高校の事例です。
学校概要
基本情報:
- 所在地:三重県桑名市
- 設置学科:機械科、電気科、電子科など
- 学校理念:「地域と歩むものづくり」
- デュアルシステム開始:2004年
桑名工業高校のデュアルシステムの特徴
1. 圧倒的な企業連携数
桑名工業高校は130社以上の企業と連携しており、これは全国でもトップクラスの規模です。
連携の窓口:
- 桑名商工会議所が中心となってコーディネート
- 2024年度は20社が生徒を受け入れ
- 製造業、建設業、情報産業など多様な業種
2. キャリア探究コースの設置
2年次から選択できる「キャリア探究コース」を設置。
コース内訳:
- 大学進学専攻: 4年制理工系大学への進学を目指す
- デュアルシステム専攻: 企業連携による実践教育
この選択制により、生徒の多様な進路希望に対応しています。
3. 実習スケジュール
基本パターン:
- 週3日:学校で授業
- 週2日:協力企業で実習
- 期間:1年間(高校2年次または3年次)
実習内容:
- 企業の正社員と同じ職場で実習
- 最先端の技術・設備に触れる
- 実際の製品製造に携わる
- チームワークを体験
成果と実績
就職実績:
- 学校斡旋希望者の就職率: 100%
- 多くの生徒が実習先企業に就職
- 地域企業からの高い信頼
生徒の成長: 過去のデータでは、デュアルシステム参加者の多くが「自信を獲得した」と報告しています。
企業からの評価:
- 即戦力としての期待値が高い
- 基礎的なビジネスマナーが身についている
- 勤労観・職業観がしっかりしている
桑名工業高校の成功要因
1. 商工会議所との強固な連携 桑名商工会議所が企業と学校の橋渡し役となり、スムーズな運営を実現。
2. 20年以上の実績とノウハウ 2004年からの蓄積により、受け入れ企業も学校も指導のコツを熟知。
3. 地域全体での人材育成意識 「地域と歩むものづくり」の理念のもと、地域企業が積極的に協力。
4. 柔軟な教育プログラム 大学進学とデュアルシステムの両立を可能にする柔軟なカリキュラム。
株式会社ゆめスタが運営するゆめアカは、東海3県40校とのネットワークを持ち、桑名工業高校を含む三重県内の工業高校との強い連携関係を築いています。このネットワークを活かし、企業のデュアルシステム導入や学校連携をサポートしています。
事例2: 東京都立葛西工科高等学校・多摩工科高等学校
東京都は、デュアルシステム専門の学科を設置した先進的な取り組みを行っています。
東京都の取り組み
デュアルシステム科の設置:
- 葛西工科高等学校
- 多摩工科高等学校
- 六郷工科高等学校(過去の事例)
これらの学校では、通常の学科とは別に「デュアルシステム科」を設置し、より本格的なデュアルシステムを実施しています。
葛西工科・多摩工科のデュアルシステム
実施形態:
- 学科として独立
- 3年間を通じた計画的な育成
- 1年次:基礎学習と企業見学
- 2年次:本格的な企業実習開始
- 3年次:実習と就職活動の両立
企業実習:
- 週1回または隔週で実施
- 年間を通じて継続
- 企業と学校が緊密に連携
過去の実績データ
六郷工科高校のデュアルシステム科の過去データでは:
2006年度:
- 卒業生16名中8名が協力企業に就職(50%)
2007年度:
- 卒業生20名中12名が協力企業に就職(60%)
この数字は、実習先企業への就職率の高さを示しています。
生徒・保護者の評価
企業実習の効果: 多くの生徒や保護者が「企業でのOJTを通じて自信を得た」と報告しており、職業人としての基礎が確立されたことが確認されています。
東京都の成功要因
1. 専門学科としての位置づけ デュアルシステム科として独立させることで、より計画的な教育が可能。
2. 都市部の企業集積 東京都という立地を活かし、多様な業種の企業と連携。
3. 都教育委員会の強力なバックアップ 都全体でデュアルシステムを推進する体制。
4. 3年間の長期育成 1年次から段階的に育成することで、より高度な技能習得が可能。
事例3: 長野県須坂創成高等学校
地域産業との密着した連携モデルとして注目される須坂創成高校の事例です。
学校概要
基本情報:
- 所在地:長野県須坂市
- 学科:創造工学科など
- 特徴:地域産業を担う実践的な人材育成
須坂創成高校のデュアルシステム
実施体制:
- 学校、企業、地域、行政が協働
- 須坂市が積極的に支援
- 地域産業界と強固な連携
実習内容:
- 地域企業での長期実習
- ものづくりの実践的スキル習得
- 地域産業への理解促進
地域連携の特徴
1. 行政の積極的関与 須坂市が窓口となり、学校と企業をつなぐ役割を果たしています。
2. 地域産業の人材育成拠点 単なる高校教育ではなく、地域の人材育成の核として機能。
3. 産学官連携モデル 企業・学校・行政の三者が密に連携する理想的なモデル。
成功要因
1. 地域全体での人材育成意識 須坂市全体が若手人材の育成を重要課題として認識。
2. 小規模地域ならではの密な連携 顔が見える関係性により、きめ細かな対応が可能。
3. 地域への定着を重視 卒業後も地域で活躍する人材の育成を目指す。
成功事例から見える共通ポイント
3つの事例から、デュアルシステム成功の共通要因が見えてきます。
共通ポイント1: 地域との強固な連携
すべての成功校に共通:
- 商工会議所や行政との連携
- 地域企業の積極的な協力
- 地域全体での人材育成意識
デュアルシステムは、学校と企業だけでなく、地域全体で支える仕組みが重要です。
共通ポイント2: 長期的な視点
特徴:
- 1年間の継続実習
- 段階的な育成プログラム
- 卒業後の就職まで見据えた指導
短期のインターンシップとは異なり、長期的な育成が成果につながっています。
共通ポイント3: 企業の本気度
成功企業の姿勢:
- 正社員と同じ職場で実習
- OJT担当者の配置
- 定期的な評価とフィードバック
- 採用を前提とした育成
企業が「将来の社員候補」として本気で育成する姿勢が重要です。
共通ポイント4: 学校の支援体制
学校側の役割:
- 定期的な企業訪問
- 生徒への事前・事後指導
- 企業との密な情報共有
- トラブル時の迅速な対応
学校が企業任せにせず、積極的に関与することが成功の鍵です。
共通ポイント5: 生徒の意識変化
デュアルシステムの効果:
- 職業観の醸成
- 自信の獲得
- 社会人としての基礎力
- 勤労意欲の向上
実際の職場体験を通じて、生徒が大きく成長しています。
企業が学ぶべき5つの教訓
これらの成功事例から、企業が学ぶべき教訓をまとめます。
教訓1: 1年間の長期視点で育成する
短期では得られない効果:
- 深い技能の習得
- 企業文化への理解
- 人間関係の構築
- 適性の見極め
焦らず、1年間かけてじっくり育成することで、確実な成果が得られます。
教訓2: 地域ネットワークを活用する
活用すべきリソース:
- 商工会議所
- 工業会・業界団体
- 自治体の産業振興部門
- 教育委員会
一社だけで取り組むのではなく、地域のネットワークを活用しましょう。
教訓3: 本気で社員候補として育成する
成功企業の共通点:
- 単なる体験ではなく、実務を任せる
- OJT担当者がしっかり指導
- 定期的な評価とフィードバック
- 採用を前提とした関わり
「お客様扱い」ではなく、「未来の仲間」として接することが重要です。
教訓4: 学校との密な連携を維持する
連携のポイント:
- 月次報告の確実な実施
- 問題が起きたらすぐ相談
- 定期的な三者面談
- 学校行事への参加
学校を「パートナー」として、継続的なコミュニケーションを図りましょう。
教訓5: 複数年継続で関係を深める
継続のメリット:
- 受け入れノウハウの蓄積
- 学校からの信頼獲得
- 翌年以降の優先的な推薦
- 社内での育成文化の定着
初年度は試行錯誤でも、2年目以降は効率的に実施できます。
まとめ
デュアルシステムの成功事例から学ぶポイントをまとめます。
代表的な成功事例
三重県立桑名工業高等学校:
- 130社以上の企業連携
- 2004年からの20年以上の実績
- 就職率100%(学校斡旋希望者)
- 商工会議所との強固な連携
東京都立葛西工科・多摩工科高等学校:
- デュアルシステム専門学科の設置
- 3年間の計画的育成
- 実習先企業への高い就職率
長野県須坂創成高等学校:
- 産学官連携の理想的モデル
- 地域全体での人材育成
- 行政の積極的関与
成功の共通要因
- 地域との強固な連携
- 1年間の長期育成
- 企業の本気の姿勢
- 学校の支援体制
- 生徒の意識変化
企業が取るべきアクション
- 地域の実施校を調査
- 商工会議所に相談
- まずは1名から受け入れ
- 1年間の育成プログラムを作成
- 学校との密な連携を維持
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