技術継承・育成

暗黙知の可視化|ベテラン技術者のスキルを若手に伝える方法

著者: 株式会社ゆめスタ
暗黙知の可視化|ベテラン技術者のスキルを若手に伝える方法

「ベテラン社員が引退したら、会社の技術が失われてしまう」「熟練の技を若手に教えたいが、うまく伝わらない」そんな悩みを抱えていませんか?

実際に、多くの製造業では、ベテラン技術者の暗黙知(言葉で説明できない勘やコツ)をどう若手に継承するかが喫緊の課題となっています。

しかし、暗黙知を「可視化」し、形式知(マニュアルや手順書)に変換することで、確実に技術を次世代に継承できます。

この記事では、暗黙知の可視化手法から、動画マニュアル・IoT・AIを活用した最新事例まで、実践的な方法を詳しく解説します。

この記事で分かること

  • 暗黙知と形式知の違いと重要性
  • 暗黙知を可視化する5つの具体的手法
  • 動画マニュアル・IoT・AIを活用した最新事例
  • 技術伝承に成功する企業の共通点
  • 若手が技術を習得しやすい環境づくり

読了時間: 約8分


目次

  1. 暗黙知とは?形式知との違い
  2. なぜ暗黙知の可視化が必要なのか
  3. 暗黙知を可視化する5つの手法
  4. デジタル技術を活用した最新事例
  5. 可視化に成功する企業の共通点
  6. よくある失敗パターンと対策
  7. まとめ:今すぐできる第一歩

暗黙知とは?形式知との違い

暗黙知(Tacit Knowledge)

暗黙知とは、言葉や文章で表現することが難しい、個人の経験や勘に基づく知識のことです。

暗黙知の具体例:

  • 機械加工における「この音なら正常」という判断
  • 溶接の「ちょうどいい火加減」の感覚
  • ベテラン職人の「目で見ただけで分かる」品質判断
  • 長年の経験から培われた「なんとなく危ない」という予感
  • 「手に伝わる感触」で判断する締め付けの強さ

これらはベテラン技術者の頭や体に蓄積されていますが、本人も「なぜそうなるか」を説明できないことが多くあります。

形式知(Explicit Knowledge)

形式知とは、マニュアルや手順書など、言葉や数値で明確に表現された知識のことです。

形式知の具体例:

  • 作業手順書
  • 品質チェックリスト
  • 機械の操作マニュアル
  • トラブルシューティングガイド
  • 数値化された基準(温度、圧力、回転数など)

形式知は誰でも読めば理解でき、共有・継承が容易です。

暗黙知と形式知の違い

項目 暗黙知 形式知
表現方法 言語化が難しい 文書・数値で表現可能
保有者 特定の個人 組織全体で共有可能
継承難易度 高い(OJTが必要) 低い(マニュアルで可能)
具体例 勘、コツ、経験則 手順書、チェックリスト
消失リスク 人の退職で失われる 文書として残る

技術継承の最大の課題は、暗黙知をいかに形式知に変換するかです。


なぜ暗黙知の可視化が必要なのか

日本の製造業が直面する危機

2025年現在、日本の製造業は深刻な技術継承の危機に直面しています。

背景:

  1. ベテラン技術者の大量引退:団塊世代の退職が進み、熟練技術者が急速に減少
  2. 人手不足:若手採用が追いつかず、技術を教える時間も不足
  3. グローバル競争:日本の製造業の強みである「匠の技」が失われれば、国際競争力も低下

暗黙知が失われた場合の影響

具体的なリスク:

  • 品質低下:微妙な調整ができず、不良品が増加
  • トラブル対応の遅れ:経験に基づく素早い判断ができなくなる
  • 生産性の低下:試行錯誤が増え、作業効率が悪化
  • 技術的優位性の喪失:競合他社に追いつかれる
  • 顧客からの信頼低下:品質が不安定になり、受注減少

暗黙知の可視化がもたらすメリット

1. 確実な技術継承 ベテランが引退しても、技術が組織に残ります。

2. 若手の成長スピード向上 マニュアル化された技術は、若手が短期間で習得可能です。

3. 品質の安定化 属人的な技術が標準化され、誰が作業しても同じ品質を実現できます。

4. 技術革新の土台 過去の技術が可視化されることで、改善・革新のヒントが見つかります。

5. 経営リスクの低減 特定の人に依存しない体制を構築でき、事業継続性が高まります。


暗黙知を可視化する5つの手法

手法1:インタビュー・ヒアリング

やり方: ベテラン技術者に、作業中の判断基準や感覚を詳しく聞き取ります。

質問例:

  • 「どんな音がしたら正常ですか?」
  • 「どこを見て判断していますか?」
  • 「何を感じ取っていますか?」
  • 「どんな経験から、その判断ができるようになりましたか?」

ポイント:

  • 「なぜ」を5回繰り返す(トヨタ生産方式の5Why)
  • 作業を実際に見せてもらいながら質問する
  • 若手も同席させ、疑問点を聞いてもらう

手法2:動画マニュアルの作成

やり方: ベテランの作業を動画で撮影し、重要なポイントを解説付きで記録します。

撮影のポイント:

  • 手元のアップ:細かい動作を記録
  • 全体の流れ:作業の順序を把握
  • NG例も撮影:「こうするとダメ」を見せる
  • 音も重要:機械音、溶接音なども収録

活用方法:

  • 新人研修の教材として使用
  • OJT前の予習に活用
  • いつでも繰り返し視聴可能

株式会社ゆめスタのゆめアカでも、高卒新人向けの技術研修プログラムでは、動画マニュアルを活用した育成支援を行っています。

手法3:作業手順書・チェックリストの作成

やり方: 暗黙知を「見える化」し、文書化します。

作成例:

【溶接作業の手順書】

準備:
□ 母材の汚れを除去する(重要:油分が残ると不良の原因)
□ 電流値を150Aに設定(厚さ6mmの鋼板の場合)

溶接:
□ トーチ角度は45度を維持
□ 移動速度は1秒に2cm(早すぎると浸透不足)
□ 音が「ジジジ」から「バチバチ」に変わったら電流を5A上げる

確認:
□ ビード幅が8mm以上あるか目視確認
□ 手で触って凹凸がないか確認

ポイント:

  • 数値化できるものは数値で示す
  • 「なぜそうするのか」理由も記載
  • 写真や図解を多用する

手法4:IoTセンサーによる数値化

やり方: ベテランの作業をIoTセンサーで計測し、数値データとして記録します。

活用例:

  • 加工機にセンサーを設置:切削速度、送り速度、切削音をデータ化
  • ウェアラブルセンサー:職人の手の動き、力の入れ方を記録
  • 温度・圧力センサー:最適な加工条件を数値化

メリット:

  • 「勘」が数値で見える
  • 若手が目指すべき基準が明確になる
  • データを蓄積し、AIで分析可能

手法5:認知課題分析(Cognitive Task Analysis)

やり方: ベテランの「頭の中の思考プロセス」を分析し、表にまとめます。

分析項目:

  1. 状況認識:何を見ているか
  2. 判断基準:どう判断しているか
  3. 意思決定:なぜその行動を選んだか
  4. 行動:実際に何をしているか

具体例:

状況認識 判断基準 意思決定 行動
切削音が高くなってきた 通常より高い音 刃が摩耗している 送り速度を20%下げる
表面に筋が見える 筋の深さが0.1mm以上 加工条件が不適切 回転数を100rpm上げる

ポイント:

  • ベテランの「当たり前」を言語化
  • 判断のパターンを整理
  • 若手が同じ判断ができるようにする

デジタル技術を活用した最新事例

事例1:AI活用「匠AI」

概要: 三菱総合研究所が開発した「匠AI」は、ベテラン技術者の暗黙知をAIで学習し、若手に継承するシステムです。

仕組み:

  1. ベテランの作業を動画・センサーで記録
  2. AIがパターンを学習
  3. 若手の作業をAIがチェックし、フィードバック

効果:

  • 技術習得期間が3年→1年に短縮
  • 不良品率が**15%→3%**に低下

事例2:IoTセンサーによる可視化

事例:切削加工の可視化

ある精密機械メーカーでは、IoTセンサーを切削工具に設置し、ベテラン職人の最適な加工条件を数値化しました。

取得データ:

  • 切削速度
  • 送り速度
  • 切削音の周波数
  • 振動パターン

結果:

  • ベテランの「この感じ」が数値で見える化
  • 若手が同じ条件で作業できるようになり、品質が安定

事例3:動画マニュアル×PowerPoint

中小製造業の成功事例

従業員50名の金属加工会社では、PowerPointで動画マニュアルを作成しました。

作り方:

  1. スマホで作業を撮影
  2. PowerPointに動画を埋め込み
  3. 重要なポイントをテキストで補足
  4. 社内共有フォルダに保存

効果:

  • 新人の独り立ちが6ヶ月→3ヶ月に短縮
  • ベテランが教える時間が50%削減
  • 作業の標準化が進み、品質が安定

可視化に成功する企業の共通点

共通点1:経営者のリーダーシップ

技術伝承は現場だけでは進みません。経営者が「技術継承は経営課題」と認識し、時間と予算を確保することが不可欠です。

具体的な取り組み:

  • 技術伝承プロジェクトチームの結成
  • 伝承活動の時間を業務時間として確保
  • マニュアル作成に対する報奨制度

共通点2:シンプルな仕組みから始める

いきなり完璧なシステムを目指すと、挫折します。

成功企業のアプローチ:

  • まず1つの工程だけをマニュアル化
  • スマホ撮影でOK(高価な機材は不要)
  • PowerPointで十分(専用ソフトは後回し)

共通点3:ベテランと若手の協働

暗黙知の可視化は、ベテラン一人では進みません。

効果的な体制:

  • ベテラン:技術を実演・説明
  • 若手:質問し、マニュアルを作成
  • 中堅社員:全体の進行管理

若手が質問することで、ベテランも「言語化」を意識するようになります。

共通点4:継続的な改善

一度作ったマニュアルは、常にアップデートが必要です。

改善のサイクル:

  1. マニュアルを作成
  2. 若手が実際に使ってみる
  3. 分かりにくい箇所をフィードバック
  4. マニュアルを改訂
  5. 再度検証

よくある失敗パターンと対策

失敗パターン1:マニュアルが膨大すぎて使われない

原因: 完璧を目指しすぎて、100ページ以上のマニュアルを作成してしまう。

対策:

  • 1つの作業を1-2ページに収める
  • 重要なポイントだけを記載
  • 細かすぎる説明は不要

失敗パターン2:ベテランが非協力的

原因: 「技術を教えると自分の価値がなくなる」と感じている。

対策:

  • 伝承活動を評価制度に組み込む
  • 「教えることで会社に貢献している」と認識してもらう
  • 技術顧問などの新しい役割を提示

失敗パターン3:作って終わり

原因: マニュアルを作成したが、実際の現場で使われない。

対策:

  • 新人研修で必ず使うことをルール化
  • OJTの前にマニュアルを読むことを義務化
  • 定期的に見直し、使いやすく改訂

失敗パターン4:言葉だけで伝えようとする

原因: 文章だけのマニュアルは、動作や感覚が伝わりにくい。

対策:

  • 動画を必ず含める
  • 写真やイラストを多用
  • 「見れば分かる」を目指す

まとめ:今すぐできる第一歩

重要ポイント

暗黙知の可視化は、製造業の未来を守るために不可欠な取り組みです。

この記事のまとめ:

  • 暗黙知とは:言葉で説明できない勘やコツ
  • 形式知とは:マニュアル化された知識
  • 可視化の手法:インタビュー、動画、IoT、AI、認知課題分析
  • 成功の鍵:経営者のリーダーシップ、シンプルな仕組み、継続的改善

今すぐできる第一歩

ステップ1:1つの作業を選ぶ まずは最も重要な1つの作業からスタートしましょう。

ステップ2:スマホで動画撮影 ベテランの作業をスマホで撮影します(5分程度でOK)。

ステップ3:若手に見せて質問を集める 若手に動画を見せ、「分からない点」を質問してもらいます。

ステップ4:補足説明を追加 質問に対する回答を、動画に補足説明として追加します。

ステップ5:実際に使ってみる 新人に見せて、実際に作業させてみます。

これだけで、立派な技術伝承の第一歩です。

高卒採用×技術伝承の相乗効果

高卒で採用した若手社員に、早期から技術伝承の仕組みを活用すれば、短期間で戦力化できます。

株式会社ゆめスタのゆめアカでは、東海3県40校とのネットワークを活かし、インターンシップ経由で技術継承に意欲的な高校生を採用できます。

実際に、インターンシップで技術の一部を体験した高校生は、入社後の成長スピードが速く、3年離職率も16.5%と一般的な40%を大きく下回っています。

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この記事は、株式会社ゆめスタが運営するゆめスタアカデミー(ゆめアカ)が提供しています。 高卒採用・インターンシップ支援の実績とノウハウをもとに、 中小企業の採用成功をサポートしています。

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よくある質問

この記事に関連するよくある質問

暗黙知は言葉で説明できない勘やコツ(ベテランの感覚的な技術)で、形式知はマニュアルや手順書として文書化された知識です。技術継承では、ベテランの暗黙知を可視化して形式知に変換することが重要です。動画撮影、言語化、数値化などの手法で暗黙知を形式知に変換できます。

①動画マニュアル作成(作業を撮影し、ポイントを字幕で説明)、②インタビュー手法(ベテランに「なぜそうするのか」を聞く)、③IoTセンサー活用(温度、圧力、速度を数値化)、④AI判定(良品・不良品の判定基準を学習)、⑤スキルマップ作成(誰が何をできるかを可視化)などがあります。

①作業全体を1本の動画に収める(長すぎない)、②重要なポイントを字幕で強調、③複数のアングルから撮影(手元、全体など)、④ベテランの音声解説を入れる、⑤編集して見やすくする、⑥定期的に更新する、の6つがポイントです。スマートフォンでも十分撮影できます。

簡易的なIoTセンサーは数万円から導入可能です。AI判定システムは数十万円~数百万円と幅がありますが、最近は中小企業向けの低コストなソリューションも増えています。また、人材開発支援助成金などを活用すれば、コストを削減できます。まずは小規模な試験導入から始めることをおすすめします。

第三者(若手社員や外部のコンサルタント)がインタビューする方法が効果的です。「なぜそうするのですか?」「どうやって判断しているのですか?」と繰り返し質問することで、ベテラン自身も気づいていなかった判断基準が明らかになります。また、作業を動画撮影し、一緒に見ながら解説してもらう方法も有効です。

ベテラン職人の協力を得ることです。「自分の技術が評価されている」「後継者に伝えたい」というモチベーションがなければ、効果的な可視化はできません。技能伝承手当の支給、社内表彰、後継者育成の人事評価への反映など、ベテランのモチベーションを高める仕組みが重要です。

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