技術継承・育成

技術継承の危機|ベテラン職人が引退する前にやるべきこと

著者: 株式会社ゆめスタ
技術継承の危機|ベテラン職人が引退する前にやるべきこと

「ベテラン職人が来年引退するが、後継者が育っていない」「技術を若手に伝えたいが、何から始めればいいか分からない」そんな危機感を抱いていませんか?

2025年には約800万人いる団塊の世代が後期高齢者(75歳)となり、製造業では深刻な技術継承の危機に直面しています。厚生労働省のデータによると、製造業の59.5%が技能継承に課題を抱えており、15業種中3番目に高い数値となっています。

しかし、計画的に技術継承を進めることで、ベテラン職人の技術を次世代に確実に引き継ぐことは可能です。

この記事では、ベテラン職人が引退する前に実施すべき具体的な対策と、技術継承を成功させる方法を解説します。

この記事で分かること

  • 2025年問題による技術継承危機の実態
  • 技術継承が進まない3つの根本原因
  • ベテラン引退前に実施すべき7つの対策
  • 暗黙知を可視化する具体的な方法
  • 高卒採用と技術継承の成功事例

読了時間: 約9分


目次

  1. 技術継承の危機|2025年問題とは
  2. 技術継承が進まない3つの根本原因
  3. ベテラン引退前に実施すべき7つの対策
  4. 暗黙知を可視化する5つの方法
  5. 高卒採用で技術継承を成功させる
  6. まとめ

技術継承の危機|2025年問題とは

2025年問題の実態

2025年問題とは、約800万人いる団塊の世代(1947〜1949年生まれ)が後期高齢者(75歳以上)となることで、日本が超高齢化社会を迎える社会課題です。

製造業においては、この世代が持つ熟練技術が失われる「技術継承の危機」として深刻化しています。

製造業の就業者数の減少

製造業の就業者数は年々減少しており、以下のような推移となっています。

  • 2002年: 1,222万人
  • 2022年: 996万人(18%減)
  • 2040年(予測): 924万人

20年間で約230万人が減少しており、今後もこの傾向は続くと予測されています。

出典: 厚生労働省「労働力調査」

高齢就業者数の推移

一方で、製造業における高齢就業者数は増加傾向にあります。

  • 2002年: 58万人
  • 2020年: 92万人

ベテラン職人の引退は時間の問題であり、早急な対策が求められています。

技能継承に課題を抱える企業の割合

厚生労働省の調査によると、製造業の**59.5%**が技能継承に問題を抱えており、15業種中3番目に高い数値です。

特に以下の課題が顕著です。

  • 指導する人員が不足: 54.9%
  • 人材育成の時間が不足: 49.4%
  • ベテランの技術を言語化できない: 約40%

技術継承が進まない3つの根本原因

技術継承が進まない背景には、以下の3つの根本原因があります。

原因1: 暗黙知の継承困難

ベテラン職人が持つ技術の多くは、暗黙知(経験や勘、コツ)の塊であり、言語化・マニュアル化が困難です。

暗黙知の例:

  • 「音や振動で機械の異常を察知する」
  • 「手の感覚で適切な力加減を判断する」
  • 「目視で寸法の誤差を見抜く」
  • 「長年の経験に基づく最適な作業手順」

これらは単純なマニュアルでは伝えられず、OJT(On-the-Job Training)でも時間がかかります。

原因2: 技術継承の時間不足

多くの企業では、技術継承を「業務外」で行わなければならない状況にあります。

時間不足の要因:

  • 日常業務が忙しく、教育に時間を割けない
  • ベテラン職人自身が現場で手一杯
  • 「自分でやった方が早い」という意識
  • 若手の業務習熟度が低く、任せられない

定年・引退が近いベテランに業務外労働を行う体力があるのか、という問題もあります。

原因3: ベテラン世代の意欲不足

ベテラン世代自身も、技術継承に対する意欲が低いケースがあります。

意欲不足の背景:

  • 「後輩に教えるより、自分でやった方が早い」
  • 「教える時間があるなら、仕事を進めたい」
  • 「若手が定着しないので、教えても無駄」
  • 「教育にインセンティブがない」

結果的に若手が育たないまま現場が回ってしまい、ベテランの退職後に技術が失われます。


ベテラン引退前に実施すべき7つの対策

技術継承を成功させるには、ベテラン職人の引退前に以下の7つの対策を実施する必要があります。

対策1: 技能伝承計画の策定

まず、誰の技術を、誰に、いつまでに引き継ぐかを明確にした計画を策定します。

技能伝承計画の要素:

  1. 継承対象者: ベテラン職人のリストアップ
  2. 継承内容: 保有技術・スキルの棚卸し
  3. 継承先: 若手社員の割り当て
  4. 継承期間: 1年、3年、5年などの期限設定
  5. 評価基準: 到達目標とチェックポイント

計画がなければ、「いつか伝えよう」が「気づいたら引退」となってしまいます。

対策2: 暗黙知の可視化(動画マニュアル化)

ベテランの技術を動画で記録することで、暗黙知を可視化します。

動画マニュアルのメリット:

  • 作業の動きやスピードをそのまま記録できる
  • 音や振動も収録可能
  • 何度でも繰り返し視聴できる
  • 新人教育にも活用できる

撮影のポイント:

  • 複数のアングルから撮影(手元、全体、機械の動き)
  • ベテラン職人に解説を入れてもらう
  • 失敗例も記録する(なぜNGかを理解できる)

対策3: OJT計画書の作成

計画的なOJTを実施するため、OJT計画書を作成します。

OJT計画書の構成例:

期間 目標 実施内容 評価基準
1〜3ヶ月 基本作業の習得 簡単な作業を反復練習 1人で作業完了できる
4〜6ヶ月 応用作業の習得 複雑な作業に挑戦 ミスなく完了できる
7〜12ヶ月 独り立ち 1人で作業を完結 品質基準を満たす

計画書があることで、ベテランも若手も「次に何をすべきか」が明確になります。

対策4: 技術継承を業務内で実施

技術継承を業務時間内で行えるよう、社内制度を整備します。

制度整備の例:

  • 週1回の「技術継承タイム」を設定
  • ベテランの業務量を調整(技術継承の時間を確保)
  • 若手の習熟度に応じた業務割り当て
  • 技術継承を評価項目に追加

業務外で行うのは持続可能性が低いため、業務内での実施が理想です。

対策5: インセンティブ制度の導入

ベテラン職人が技術継承に取り組むモチベーションを高めるため、インセンティブを用意します。

インセンティブの例:

  • 技術指導手当の支給
  • 評価制度への反映(ボーナス・昇給)
  • 表彰制度(優秀指導者賞)
  • 退職後の嘱託再雇用の優遇

「若手を育てることで得がある」仕組みを作ることで、ベテランの意欲が向上します。

対策6: デジタルツールの活用

デジタル技術を活用することで、技術継承の効率を高めます。

活用できるツール:

  • 動画編集ソフト: 作業動画を編集・保存
  • スキル管理システム: 社員のスキルを可視化
  • eラーニング: 理論を学べるオンライン教材
  • AR/VR: 仮想空間での作業訓練

例えば、動画マニュアルとeラーニングを組み合わせることで、若手が自主的に学べる環境を構築できます。

対策7: 高卒採用による若手の確保

技術継承の前提として、若手の採用が不可欠です。

しかし、多くの中小企業が若手採用に苦戦しています。高卒採用は、若手を確保する有効な手段です。

株式会社ゆめスタが運営するゆめアカでは、東海3県40校とのネットワークを活かし、製造業の高卒採用を支援しています。2025年度には3社で14名の採用実績があり、中には3年間ゼロだった企業が4名採用に成功した事例もあります。


暗黙知を可視化する5つの方法

ベテラン職人の「暗黙知」を若手に伝えるには、可視化が必要です。

方法1: 作業動画の撮影

最も効果的な方法は、作業を動画で記録することです。

撮影のポイント:

  • 手元のアップと全体像の両方を撮影
  • スローモーション機能を活用
  • ベテランの音声解説を録音
  • 失敗例も記録(NGパターンの理解)

複数のネットワークカメラとVMS(ビデオマネジメントシステム)を設置し、熟練技術者の作業を多角的に撮影する企業も増えています。

方法2: 作業手順書の作成

動画だけでなく、文字と図解による手順書も作成します。

手順書の構成:

  1. 作業の目的
  2. 使用する工具・機材
  3. 作業手順(ステップごとに記載)
  4. 注意点・NG例
  5. 品質チェックポイント

写真や図解を多用し、初心者でも理解できる内容にします。

方法3: チェックリストの整備

品質を維持するため、チェックリストを作成します。

チェックリストの例:

  • 機械の異常音がないか
  • 寸法が規格内か
  • 傷や汚れがないか
  • 工具の状態は良好か
  • 安全確認は完了したか

チェックリストにより、ベテランの「確認のクセ」を若手に伝えられます。

方法4: 若手へのヒアリング

若手に「どこが分からないか」をヒアリングすることで、ベテランが気づかない盲点を発見できます。

ヒアリングの質問例:

  • この作業で難しいと感じる点はどこですか?
  • なぜこの手順が必要なのか理解していますか?
  • ベテランとの違いは何だと思いますか?
  • 何を見て判断すればいいか分かりますか?

若手の視点を取り入れることで、より効果的なマニュアルが作成できます。

方法5: 勉強会・ワークショップの開催

定期的に勉強会を開催し、ベテランと若手が技術を共有する場を作ります。

勉強会の内容例:

  • ベテランによる実演
  • 若手の作業を見てフィードバック
  • トラブル事例の共有
  • 改善アイデアの議論

勉強会を通じて、暗黙知を言語化する習慣が生まれます。


高卒採用で技術継承を成功させる

なぜ高卒採用が技術継承に有効なのか

技術継承には、若手の確保が不可欠です。しかし、大卒採用は競争が激しく、中小企業は苦戦しています。

高卒採用には以下のメリットがあります。

高卒採用のメリット:

  1. 長期育成が可能: 18歳から育成できるため、技術習得に時間をかけられる
  2. 素直で吸収力が高い: 高校生は柔軟性があり、指導を受け入れやすい
  3. 定着率が高い: インターンシップ経由採用の3年離職率は16.5%(一般の38.4%の半分以下)
  4. 学校とのネットワーク: 学校推薦により、継続的な採用が可能

インターンシップで技術継承の準備

インターンシップを導入することで、入社前に技術継承の基礎を築けます。

インターンシップの効果:

  • 高校生が実際の作業を体験できる
  • 入社後のミスマッチを防げる
  • ベテラン職人との関係性を事前に構築
  • 会社への愛着が生まれる

ゆめアカでは、東海3県40校とのネットワークを活かし、インターンシップから採用、そして技術継承までを一貫してサポートしています。

3年でゼロから一人前に育てる

高卒採用では、3年間の計画的な育成が重要です。

3年育成計画の例:

年次 目標 実施内容
1年目 基本作業の習得 ベテランのサポート、簡単な作業を反復
2年目 応用作業の習得 複雑な作業に挑戦、OJTで技術継承
3年目 独り立ち 1人で作業完結、後輩の指導を開始

3年間で一人前に育てることで、ベテラン引退後も技術が途絶えません。


まとめ

重要ポイント

  • 2025年問題により、製造業では深刻な技術継承の危機が到来
  • 技術継承が進まない原因は「暗黙知の継承困難」「時間不足」「ベテランの意欲不足」
  • ベテラン引退前に7つの対策を実施することで、技術継承は可能
  • 暗黙知は動画マニュアル化、作業手順書、チェックリストで可視化
  • 高卒採用とインターンシップで若手を確保し、3年で一人前に育成

次にすべきこと

  1. ベテラン職人のリストアップ: 誰が何の技術を持っているか棚卸し
  2. 技能伝承計画の策定: 誰に、何を、いつまでに引き継ぐか計画化
  3. 動画マニュアルの作成開始: 今すぐ作業を撮影し記録
  4. 高卒採用の検討: 若手を確保し、長期育成計画を立てる

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2025年度には3社で14名の採用実績があり、中には3年間ゼロだった企業が4名採用に成功した事例もあります。

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この記事は、株式会社ゆめスタが運営するゆめスタアカデミー(ゆめアカ)が提供しています。 高卒採用・インターンシップ支援の実績とノウハウをもとに、 中小企業の採用成功をサポートしています。

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よくある質問

この記事に関連するよくある質問

2025年には団塊の世代約800万人が後期高齢者(75歳)となり、製造業では深刻な技術継承の危機に直面します。厚生労働省のデータによると、製造業の59.5%が技能継承に課題を抱えており、ベテラン職人の大量引退により、貴重な技術が失われるリスクがあります。計画的な技術継承が喫緊の課題です。

言葉で説明できない勘やコツのことです。ベテラン職人が長年の経験で身につけた「手の感覚」「音の違い」「微妙な調整」などが該当します。これらは「やってみせる」だけでは伝わらず、可視化して形式知(マニュアルや手順書)に変換する必要があります。動画撮影、言語化、数値化などの手法があります。

一般的に3~5年かかると言われています。高度な技術では10年以上必要な場合もあります。ベテラン職人の引退直前に慌てて教え始めても間に合わないため、早めに計画を立て、段階的に技術を伝承していくことが重要です。技能伝承計画を立て、5年後を見据えた育成ロードマップを作成しましょう。

ベテラン職人のモチベーションを維持することです。「自分の技術を伝えたい」という意欲がなければ、効果的な継承はできません。ベテランを「教える立場」として評価し、技能伝承手当の支給、社内での表彰、後継者育成を人事評価に反映させるなど、モチベーション向上の仕組みが必要です。

動画マニュアルの作成、IoTセンサーでの可視化、AIによる判定基準の明確化などのデジタル技術を活用します。また、失敗を許容する文化、質問しやすい雰囲気、段階的な目標設定、小さな成功体験の積み重ねも重要です。ベテランと若手が一緒に働く時間を確保し、OJTを通じて実践的に学べる環境を整えましょう。

①計画がない(場当たり的)、②ベテランの引退直前に始める、③暗黙知を可視化していない、④若手のモチベーションが低い、⑤ベテランが教えたがらない、⑥継承のための時間が確保されていない、などが主な原因です。これらを避けるには、早期からの計画的な取り組みが不可欠です。

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