「特定の社員にしかできない作業がある」「ベテラン退職後、技術が途絶える不安がある」そんな悩みを抱えていませんか?
製造業では、労働人口の減少と市場の多様化により、多能工化の重要性が年々高まっています。特に技術継承においては、複数の社員が同じスキルを持つことで、知識の分散とリスク回避が可能になります。
しかし、正しい進め方を知らずに多能工化を進めると、社員の負担増加やモチベーション低下を招くこともあります。
この記事では、技術継承をスムーズに進める多能工化の戦略と、製造業で成功している事例を具体的に解説します。
この記事で分かること
- 多能工化が技術継承に有効な3つの理由
- 製造業の成功事例と失敗事例
- 多能工化を進める5つのステップ
読了時間: 約10分
目次
- 多能工化とは?
- 多能工化が技術継承に有効な3つの理由
- 多能工化の5つのメリット
- 多能工化のデメリットとリスク
- 製造業の成功事例
- よくある失敗パターン
- 多能工化を進める5つのステップ
- 若手社員の多能工化育成のポイント
- まとめ
多能工化とは?
多能工化の基本を理解しましょう。
多能工化の定義
製造業における多能工化とは、1人の作業者が複数の工程や業務を担当できるようにする取り組みです。
具体例:
- 機械加工と組立の両方ができる
- 旋盤とフライス盤の両方を操作できる
- 生産と検査の両方を担当できる
英語では「マルチスキル(Multi-skill)」とも呼ばれます。
多能工化が求められる背景
2025年において、多能工化の優先度は多くの企業で高まっています。
背景にある課題:
- 労働人口の減少による人手不足
- 65歳以上の労働者比率の増加(1980年以降増加傾向)
- 市場の多様化による生産の柔軟性の必要性
- 技術継承の困難化
外部環境の変化が激しい製造業において、多能工化は生き残りの鍵となっています。
トヨタ自動車が確立した多能工の概念
多能工の概念を最初に考えたのは、トヨタ自動車の元副社長、大野耐一氏だといわれています。
トヨタの多能工化: 手が空いている工員が忙しい業務を手伝うことで、トヨタ自動車は必要な時に必要な量を供給する「ジャストインタイム」を確立していきました。
現代でも、トヨタ生産方式の基本として多能工化が実践されています。
多能工化が技術継承に有効な3つの理由
なぜ多能工化が技術継承に効果的なのでしょうか?
理由1:技術の分散でリスク回避
特定の人にしか技術がない「属人化」を解消できます。
属人化のリスク:
- ベテラン退職で技術が失われる
- 急な欠勤で業務が止まる
- 1人に負担が集中する
多能工化すれば、複数人が同じ技術を持つため、リスクが分散されます。
理由2:教え合う文化が生まれる
多能工化の過程で、社員同士が技術を教え合うようになります。
教え合いの効果:
- ベテランの暗黙知が共有される
- 若手の質問が増える
- チーム全体で技術レベルが向上
株式会社ゆめスタが支援する企業でも、多能工化を進めることで、若手とベテランのコミュニケーションが活発になり、技術継承がスムーズに進んだ事例があります。
理由3:若手の成長スピードが向上
複数のスキルを学ぶことで、若手の視野が広がります。
成長が早まる理由:
- 異なる業務の関連性が理解できる
- 多様な視点で問題を捉えられる
- キャリアの選択肢が広がる
1つの業務だけでは分からなかった「なぜこの工程が必要なのか」が、複数の業務を経験することで理解できます。
多能工化の5つのメリット
多能工化がもたらすメリットを整理します。
メリット1:生産性の向上
人員配置の柔軟性が高まり、無駄が減ります。
生産性向上の具体例:
- 繁忙期に人員を集中投入できる
- 手待ち時間が減る
- 生産ラインの停止が防げる
トヨタ自動車の「ジャストインタイム」も、多能工化による柔軟な生産体制が基盤です。
メリット2:欠員対応力の強化
誰かが休んでも、業務が止まりません。
欠員対応の例:
- 急な病欠でも代替要員がいる
- 繁忙期の応援体制が組める
- 退職者が出ても影響が少ない
人手不足の時代に、欠員対応力は重要な経営資源です。
メリット3:従業員のスキルアップ
多能工化は、社員の成長機会になります。
スキルアップの効果:
- 新しいスキルが身につく
- 仕事の幅が広がる
- キャリアアップにつながる
適切な評価制度と組み合わせれば、モチベーション向上にもつながります。
メリット4:業務の見える化
多能工化の過程で、業務がマニュアル化されます。
見える化の効果:
- 作業手順が標準化される
- ノウハウが文書化される
- 教育が効率化される
属人化していた業務が、誰でもできる業務に変わります。
メリット5:コスト削減
少ない人数で多くの業務をこなせるため、人件費が削減できます。
コスト削減の例:
- 必要最小限の人員で運営できる
- 外注費が減る
- 残業時間が減る
ただし、コスト削減だけを目的にすると、社員の負担増加につながるため注意が必要です。
多能工化のデメリットとリスク
多能工化には、デメリットやリスクもあります。
デメリット1:育成期間中の生産性低下
多能工育成のために教育係が現場を離れることで、一時的に業務が現場社員に集中します。
対策:
- 育成計画を立て、負荷を分散する
- 繁忙期を避けて育成する
- 動画マニュアルで自習時間を増やす
短期的な生産性低下は、長期的な生産性向上への投資と考えます。
デメリット2:専門性の低下リスク
浅く広くなり、深い専門性が育たない可能性があります。
対策:
- コア業務と周辺業務を分ける
- 専門分野は維持しつつ、関連業務を習得させる
- 資格取得を支援する
全員が全てをできる必要はなく、戦略的に多能工化を進めます。
デメリット3:社員の負担増加
単に企業の都合で多くの業務を担当させると、モチベーション低下を招くおそれがあります。
対策:
- 適切な評価・報酬制度を設ける
- 本人の希望を聞く
- 段階的に進める
社員との合意形成が重要です。
デメリット4:ミスやトラブルの増加
スキルが未熟な状態で複数の業務を兼任することで、ミスやトラブルが増えるリスクも伴います。
対策:
- 十分な訓練期間を設ける
- チェック体制を強化する
- 最初は簡単な業務から始める
安全第一で、焦らず進めることが大切です。
製造業の成功事例
実際に多能工化に成功した企業の事例を紹介します。
事例1:トヨタ自動車
取り組み: ジャストインタイム生産を実現するため、全社で多能工化を推進
成果:
- 柔軟な生産体制の確立
- 生産性の大幅向上
- 世界トップクラスの製造業へ成長
トヨタ生産方式は、今や世界中の製造業で参考にされています。
事例2:星野リゾート
製造業ではありませんが、参考になる事例です。
取り組み: すべての従業員がフロント、レストランサービス、客室掃除、調理補助の4つの業務を担当できるように多能工化を進めた
成果:
- 生産性向上と社員満足度向上の両方を実現
- 繁忙期の柔軟な人員配置が可能に
- 従業員のスキルアップとキャリア形成
サービス業でも、多能工化は有効な戦略です。
事例3:中小製造業A社(従業員50名)
課題: ベテラン職人の退職で技術が失われる懸念
取り組み:
- 若手2名に複数工程を習得させる
- ベテラン指導のもと、3ヶ月で基礎を習得
- 動画マニュアルで復習できる環境を整備
成果:
- ベテラン退職後も業務が継続
- 若手の成長が早まった
- 技術が複数人に継承された
中小企業でも、計画的に進めれば多能工化は実現可能です。
よくある失敗パターン
多能工化で失敗しないために、よくあるパターンを知っておきましょう。
失敗パターン1:社員との合意形成不足
いきなり「明日から別の業務もやって」と言われても、社員は困惑します。
問題点:
- モチベーションが下がる
- 「押し付けられた」と感じる
- 離職につながる
対策: 会社の現状と多能工化によって得られるメリットをわかりやすく説明し、社員の理解と協力を得ます。
失敗パターン2:評価制度の不備
新しいスキルを習得しても、評価や報酬に反映されない。
問題点:
- 「頑張っても意味がない」と感じる
- スキルアップへの意欲が低下
- 優秀な人材が流出する
対策: 新たなスキルを身につけるにあたって適切な評価制度や報酬制度を設けることで、各従業員が能動的にスキルアップに取り組むよう促します。
失敗パターン3:教育計画の不在
行き当たりばったりで「この業務も覚えて」と指示する。
問題点:
- 体系的に学べない
- 何をどこまで覚えればいいか分からない
- 教える側も負担が大きい
対策: まずはじめに職場における従業員のスキルレベルを可視化し、段階的な育成計画を立てます。
失敗パターン4:一度に多くを求める
最初から全ての業務を任せようとする。
問題点:
- 社員が混乱する
- ミスが増える
- 挫折する
対策: 関連性の高い業務から順に習得させ、無理のないペースで進めます。
多能工化を進める5つのステップ
実際に多能工化を進める手順を解説します。
ステップ1:目的と目標の明確化
なぜ多能工化が必要なのか、何を達成したいのかを明確にします。
目的の例:
- 属人化の解消
- 生産性の向上
- 技術継承の推進
- 欠員対応力の強化
目的が明確でないと、社員の理解と協力が得られません。
ステップ2:現状のスキルマップ作成
従業員のスキルレベルを可視化します。
スキルマップの例:
| 社員名 | 旋盤 | フライス | 溶接 | 組立 | 検査 |
|---|---|---|---|---|---|
| A さん | ◎ | ○ | × | △ | × |
| B さん | △ | ◎ | ○ | × | △ |
| C さん(若手) | × | × | × | △ | △ |
凡例:
- ◎: 指導できる
- ○: 一人でできる
- △: 補助できる
- ×: 未経験
現状を把握することで、誰に何を教えるべきか明確になります。
ステップ3:優先順位の設定
どの業務から多能工化を進めるか決めます。
優先順位の判断基準:
- 属人化度が高い業務
- 習得難易度が低い業務
- 関連性が高い業務
例えば、旋盤ができる人にフライス盤を教えるのは、関連性が高いため習得しやすいです。
ステップ4:育成計画の作成
いつ、誰に、何を、どうやって教えるか計画します。
育成計画の例:
| 対象者 | 習得業務 | 期間 | 指導者 | 目標レベル |
|---|---|---|---|---|
| C さん | 旋盤 | 3ヶ月 | A さん | ○(一人でできる) |
| B さん | 組立 | 2ヶ月 | D さん | ○(一人でできる) |
計画があれば、進捗管理がしやすくなります。
ステップ5:実行と評価
計画に基づいて育成を実施し、定期的に評価します。
評価のポイント:
- スキルチェックテストの実施
- 作業時間の測定
- 品質検査の合格率
- 本人の自己評価
評価結果を基に、計画を見直します。
若手社員の多能工化育成のポイント
高卒新人など若手社員を多能工化する際のポイントを解説します。
ポイント1:基礎を徹底する
最初の1つ目のスキルは、時間をかけて徹底的に習得させます。
理由:
- 基礎がしっかりしていれば、2つ目以降は早い
- 自信がつく
- 安全意識が育つ
焦らず、基礎固めに時間をかけます。
ポイント2:関連業務から広げる
全く異なる業務ではなく、関連性の高い業務を選びます。
関連業務の例:
- 機械加工 → 測定・検査
- 組立 → 部品管理
- 溶接 → 研磨
関連性があれば、習得が早く、知識が深まります。
ポイント3:本人の希望を聞く
一方的に決めるのではなく、本人の意向を確認します。
確認すること:
- どの業務に興味があるか
- 将来どうなりたいか
- 不安な点はないか
本人が納得していれば、学習意欲が高まります。
ポイント4:小さな成功体験を積ませる
最初から難しい業務ではなく、達成可能な課題を与えます。
成功体験の例:
- 簡単な部品の加工
- 補助作業から開始
- 段階的に難易度を上げる
成功体験が自信につながり、次のスキル習得への意欲が生まれます。
ポイント5:インターンシップとの連携
高卒採用の場合、インターンシップで複数業務を体験させることも有効です。
メリット:
- 入社前から多様な業務を知れる
- 適性が見極められる
- 入社後の配属がスムーズ
ゆめアカが支援するインターンシップでは、複数の工程を体験することで、入社後の多能工化がスムーズに進み、3年離職率が16.5%と一般的な38.4%の半分以下に抑えられています。
まとめ
重要ポイント
多能工化で技術継承をスムーズに進めるには、以下のポイントが重要です。
-
多能工化の3つのメリット:
- 技術の分散でリスク回避
- 教え合う文化が生まれる
- 若手の成長スピードが向上
-
成功の5ステップ:
- 目的と目標の明確化
- 現状のスキルマップ作成
- 優先順位の設定
- 育成計画の作成
- 実行と評価
-
失敗しないポイント:
- 社員との合意形成
- 適切な評価・報酬制度
- 段階的なアプローチ
次にすべきこと
- 自社のスキルマップを作成する
- 多能工化の目的を明確にする
- 育成計画を立てて実行する
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